こんにちは、金育SEのまさ(@kinikuse)です。
先日、日経新聞にこんな記事が公開されました。
祝日の先物取引、22年にも始動 個人のリスク回避へ
日本経済新聞 6/30付
「先物取引が祝日も可能になる」という内容ですが、証券システムのプロとしては懸念点ばかりでした。
日経の記事ではざっくりしかわからなかったため、大証が公開している資料「デリバティブの祝日取引に関する ワーキンググループ報告書」をじっくり読み込みました。すると、ロスカットルールに影響がありそうな重要な変更をはらんでいます。
日本取引所グループが詳細な資料を公開していたので、個人投資家にとって注目すべきポイントを徹底解説していきます。
- 祝日取引が可能になった背景
- 4つの参加者の思惑
- 祝日取引の6つの変更点と2つの懸念点
祝日の先物取引が可能になった背景

きっかけは2019年の10連休GWでした。
過去に例を見ない祝日続きによって、日本国内の株式市場はストップ。しかし、当然のように海外では経済が回りつづけ、マーケットも動いていました。日本だけがマーケットから取り残されたことによって、祝日取引へのリスクが本格的に懸念され始めました。

日本の取引参加者には、
ざっくり4種類の参加者がいます。
大阪証券取引所とネット証券・大手証券・海外投資家で、それぞれ別の思惑がありました。
大阪証券取引所は祝日取引を始めたい!
海外の取引所ではデリバティブの取引時間は広がっていて、世界大手のシカゴ・マーカンタイル取引所はアメリカの祝日に準じつつも、祝日の夕方から株式先物の取引を再開しています。シンガポール取引所(SGX)も1月1日など以外は取引可能でした。
日本のデリバティブ取引の主役は外国人です。彼らのスタンダードに寄せて取引量を増やせれば、売買手数料もガッポガッポです。
取引所は祝日取引を始めたい派でした。
ネット証券も祝日取引に賛成!
ネット証券の顧客は個人投資家のみです。個人は基本的には日本のマーケットでしか取引しないので、海外が空いている日も取引できると嬉しいです。
実際、10連休GWでは、トランプさんがツイッターで対中関税の引き上げを表明し、休み明けは大幅安になりました。海外取引に対応する証券会社で口座を開いていなければ、リスクヘッジ手段として先物を利用できませんでした。
個人投資家は家から取引するだけなので、祝日も取引するでしょう。ネット証券も取引が増えれば手数料が増えるので賛成でした。
大手証券は祝日取引に反対…
大手証券会社の顧客は機関投資家と富裕層がメインです。
このうち、機関投資家は動かせる金額が非常に大きいです。彼らが参加するなら祝日取引も意義がありますね。
ただし、ほとんどの機関投資家は参加しません。祝日に新たに出社してまで取引するとは考えられません。祝日対応すると「トレーダー」「セールス」「ミドルサイド」「ヘルプデスク」と非常に多くの社員の出社が必要になってしまいます。
今までも、夜間取引はほとんど参加していませんでした。私の知っている証券会社では、夜19時以降の注文を断ってますしね。。
機関投資家を顧客に持つ大手証券は現時点で慎重だ。ある大手幹部は「顧客動向次第だが、夜間に積極的に売買するような機関投資家はもともと少なく、祝日取引へのニーズもそれほどない」とみる。銀行などの休業中に取引すると、担保の証拠金が不足する事態が発生しかねないと危惧する関係者も多い。
日経の記事にもありますが、大手証券は反対派でしょう。
海外投資家は祝日取引はどっちでもいい
海外投資家は「祝日取引できるならする」程度でどちらでも良いでしょう。
日本市場は世界で最も早く開く株式市場です。もし月曜祝日に取引できるようになれば、利用する投資家は必ずいます。ただ、絶対必要か?と言われると、次に早く開く市場を利用するだけなのでなくても良いんです。
先物取引の祝日対応の変更点

いろいろな思惑はありますが、祝日取引は解禁されることになりました。
元資料を読み込むと、主に5つの変更点があります。証券システムのプロとしては他にも気になりますが、それは本業タイムに整理します。笑
- 一部の祝日で、指数先物と商品先物を取引を解禁
- 取引証拠金の事前割増制度★
- 祝日最終日に板残が必ず失効する
- 祝日もマーケットメイカー制度の対象の予定★
- ダイナミックサーキットブレーカーの時間は平日より長めに
★をつけた点は私達のような個人投資家にも大きな影響がある部分です。1つずつ見ていきましょう。
懸念点1:証拠金が余計にかかる

先物取引は1単元の金額が数百万円と巨額なので、一定の金額を担保として預ける必要があります。これを証拠金といいます。
祝日にも先物の値段が動いても、他の金融機関はほぼ閉まっています。先物の評価損益が悪化しているのに十分な証拠金を入れられない事態になりかねません。そのため、少し割増料金を追加することになりました。
1日だけなら普段の30%増しです。GWなどの連休だと45%、60%と増えていきます。
ポイントは「祝前日もこの影響を受けること」です。

図のように今までとは証拠金の必要金額が異なる日が発生します。
祝日取引する気がなくても、割増金額が必要になります。不足するとロスカットになりかねないので、長期で先物ポジションを抱える人は注意が必要です。
懸念点2:マーケットメイク対象だが詳細未定
メーケットメイカー制度とは、取引参加者が少ない状況でも売買ができるように、特定の企業に気配を提示してもらうための制度です。
日本では、主要な先物やETFでマーケットメイカーが気配を提示してくれています。
JPXの資料によると、祝日もマーケットメイク対象ということなので、「気配が少なくて取引ができない」という自体は避けられそうです。
ただし、マーケットメイクしてくれるのは、祝日取引に消極的な大手証券会社と海外投資家達です。
彼らはマーケットメイカーになると手数料が得られるので参加していました。祝日取引が魅力的ではない以上、詳細が決まったときにメリットが薄まるようであれば、気配が減ってしまう可能性があるので注視が必要になります。
今後のスケジュール

祝日取引が可能になるのは2022年10月以降を予定しています。
まだまだ制度の詳細が詰まっていないので、2020年度中を目処に整理すると言われています。
今回は日経の記事『祝日の先物取引、22年にも始動 個人のリスク回避へ』を詳しく解説してみました。
中でも、証拠金の割増は不用意なロスカットを誘発するので、とても重要な問題です。
ちなみに祝日取引から落選した、個別株オプションは、日本株のオプション取引が可能な商品です。「かぶオプ」という愛称で、私の友人が広める活動をしてたります。笑
もしかぶオプが祝日解禁されると、海外の取引所にも上場している銘柄で色々と遊べたはずなので少し残念です。笑
いずれにせよ、草案が出たばかりなので、今後の制度見直しの中で、じっくりと議論されることでしょう。
東証の制度変更としては、TOPIX対象銘柄の変更も大きな話です。
今回のような読み応えのある記事は「SORとダークプール」でも取り扱っています。
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まさ