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お金が尽きる確率をゼロにしようとすると、FIREできなくなる
この記事で伝えたいこと
FIREの「お金が尽きる確率」に、安全なラインはありません。引出率を0.5%動かすたびに確率がずるずる動く、なだらかな坂です。しかも確率をゼロに近づけようとするほど必要な資産が増えて、働く年数が伸びます。だから決めるべきは「何%なら安全か」ではなく「何%までなら引き受けられるか」。それさえ決まれば、必要な金額のほうは計算が出してくれます。ちなみに今の私は、20%くらいを目安にしています。
こんにちは、金育SEのまさ(@kinikuse)です。
ライフプランシミュレーター『LIFIRE』では2000回のモンテカルロシミュレーションを回して、FIRE成功確率を算出することができます。
で、自分で作っておいて何なんですが、作ってからずっと、私がいちばん気になっていました。
「で、結局こいつは何%ならFIREできるって言ってるんだ?」
ベータ版を公開してから、記事を書きながらいろんな条件で回してきました。単身で1億円、子ども3人、子ども2人。自分の数字も入れたし、友人の数字も入れて回しました。出てくる数字はどれも、けっこう厳しい。前回の記事では、4人家族・1.5億円で40歳リタイアして、100歳までにお金が尽きる確率が32%でした。
そうやってしばらく眺めていて、ひとつだけ結論が出ました。
『足るを知る』
安全を突き詰めようとするのをどこかでやめないと、この計算は永久に終わりません。どこで「もういい」と言うかを自分で決めるところまでが、シミュレーションなんですよね。
で、今の私は尽きる確率20%くらいを目安に考えています。今日はそこに至った理由を書きます。
先に断っておくと、数字はひとつも緩めません。 32%は32%のままです。変えるのは数字じゃなくて、その読み方のほうです。
「何%までなら安全か」に、答えはありません
先に答えを書きます。安全なラインはありません。崖じゃなくて、坂です。
単身・40歳・金融資産1億円のモデルで、資産は1億円のまま固定して、生活費のほうを年250万円から500万円まで振りました。 引出率でいうと2.5%から5.0%です。それぞれ2,000通りの未来を回しています。相場の良い年・悪い年をランダムに並べた60年を2,000通り作って、そのうち何通りでお金が尽きたかを数える、というやり方(モンテカルロ)です。
| 引出率 | 2.5% | 3.0% | 3.5% | 4.0% | 4.5% | 5.0% |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年間の生活費 | 250万円 | 300万円 | 350万円 | 400万円 | 450万円 | 500万円 |
| 100歳までにお金が尽きる確率 | 14% | 24% | 33% | 44% | 54% | 62% |
だいたい10ptずつ、等間隔で上がっていきます。「ここから急に危なくなる」という段差が、どこにもない。
つまり「3.5%なら安全で、3.6%から危険」みたいな線は引けないんですよね。どこで切っても、その手前とその先は地続きです。安全ラインを探す作業は、最初から空振りが決まっている。
ちなみに4%ルールを当てはめると、44%です
表の真ん中、引出率4.0%のところ。よく言われる4%ルールの水準です。このモデルだと44%でした。
ただ、これを「4%ルールは日本では通用しない」と読むのは早いです。いちばん効いているのは国の違いじゃなくて、期間なので。
44%の内訳。税や社会保険料のせいではありません
4%ルールの元になった研究(Bengenの論文と、いわゆるTrinity Study)が検証しているのは30年です。この計算は40歳から100歳までの60年。倍あります。ここがいちばん大きい。
ちなみに「100歳まではさすがに見すぎでは」と思う人もいると思うんですが、95歳で打ち切っても42%です。ほとんど変わりません。破綻の大半はもっと手前で確定しているので、後ろを削っても効きません。
次に効くのがリターンの前提です。このモデルは外国株を名目7.0%・インフレ1.5%で置いているので、株の実質リターンは約5.5%。株の取り分としては控えめな置き方です。本家の4%ルールが使っている米国株の実績は、実質でこれより高い。ポートフォリオ全体で見ると実質約4.9%になりますが、こちらは株と債券を混ぜた本家のポートフォリオと近い水準なので、「全体で2%負けている」という言い方はしません。負けているのは株の取り分の前提です。
3つ目が計算のやり方。この計算はリターンを1年ごとに独立に引いています(モンテカルロ)。実際に起きた相場の並びをそのまま使うやり方(ヒストリカル)に比べて、とんでもなく悪い並びを引く確率が高めに出ます。本家の4%ルールは後者です。
税と社会保険料も効きますが、主犯ではありません。表示上の引出率3.0%が、実際の出金では3.3〜3.5%相当まで上振れする、という規模感です。
あと、「日本はインフレがあるから4%ルールが不利」というのは誤りです。本家の4%ルールもインフレ調整して取り崩す前提なので、そこは共通条件なんですよね。効いているのはインフレそのものじゃありません。
ゼロに近づけるには、生活を削るか、資産を積むか
ここが本題です。
表の左端を見てください。引出率2.5%まで絞れば、確率は14%まで落ちます。じゃあそこを目指せばいいじゃないか、という話になりそうですよね。
でも上に書いたとおり、この表は資産を1億円のまま固定して、生活費を削って引出率を下げています。2.5%というのは、年300万円だった暮らしを年250万円に落とすということです。月にすると4万円ぶん。それが60年続きます。
生活のほうを削りたくないなら、逆から攻めるしかありません。同じ暮らしのまま、資産を積む。 そっちがいくらかかるのかは、この記事の後半の表ではっきり出ます。先に言っておくと、けっこうします。
どちらを選んでも、確率をゼロに近づけようとするほど何かを差し出すことになる。タイトルはこの意味です。
しかも、失敗は23年後に来ます
もうひとつ。「尽きた」未来だけを拾って、いつ尽きたのかを見てみました。
引出率5.0%のケースで、尽きた年齢の中央値は63歳です。40歳で辞めてから、23年後。
つまり辞めた直後には、何も起きません。数年ぶん取り崩して「わりといけてるな」と思っているあいだに、静かに手遅れになっている。だから「やってみて危なそうだったら戻ればいい」が効きにくいんですよね。戻れると気づいたときには、たいてい戻れる年齢を過ぎている。
この計算の前提(気にする人向けに書いておきます)
ここまでの数字は、単身・40歳・金融資産1億円で家賃8万円、65歳から厚生年金が月約10.6万円、インフレ1.5%、100歳までというモデルです。口座の内訳は下で配っているJSONに入っています。暴落が来るタイミングを検証した記事と同じ人ですね。
引出率の定義に注意があって、分子は基本生活費と住居費だけです。税金も社会保険料も入っていません。「表示される引出率より、実際の財布は重い」という状態をわざと作って検証しています。取り崩すときの譲渡益課税20.315%は、ちゃんと計算に入っています。
外国株の期待リターンは、為替を含んだ円建ての前提です。信託報酬は引いていないので、そこは自分で少し割り引いて読んでください。
リターンは1年ごとに独立に引いています。前の年の続きを引きずらないので、「暴落したぶん翌年に戻る」みたいな動きはしません。60年ぶんの並びとしては、実際より厳しめにも甘めにも出ます。
試行回数は2,000回。この回数だと確率は±2ptくらい揺れます。14%と24%は明確に違いますが、隣り合った数字を1pt単位で読まないでください。なお6本の格差はすべて同じ乱数の並びで回しているので、表の中の差は相場の引き運ではなく生活費の違いだけを映しています。
年金は割引なし、つまり制度が今のまま維持される前提です。ここを削ると数字はもっと悪くなります。
積むのが嫌なら、稼ぐという手もあります
先に答えを書きます。月10万円だけ働き続ければ、70%が56%まで落ちます。
さっきは資産を積む話でした。同じ確率に届くもうひとつの経路が、辞めたあとも少しだけ働くほうです。
こっちは世帯を変えて、4人家族・金融資産1億円のモデルで回しました。本人だけ40歳から60歳まで、収入をがくっと落として働き続けるケースです。
| 転職後の月収 | 0万円 | 10万円 | 20万円 | 30万円 |
|---|---|---|---|---|
| 100歳までにお金が尽きる確率 | 70% | 56% | 41% | 29% |
月20万円で41%。月30万円なら29%です。完全に辞めるか、今のまま走り続けるかの二択じゃない、というのがこの表の言いたいことです。
月20万円を20年やって、額面で4,800万円。この労働が、70%を41%まで押し下げています。
もちろん「20年間ずっと月20万円の働き口がある」という前提込みの数字です。そこは自分で割り引いて読んでください。私も、45歳の自分に何ができるのかと聞かれたら、ちょっと黙ります。笑
ひとつ注意を。この表は、さっきの単身1億円のモデルとは別世帯です。 引出率の表の数字と、この表の数字を引き算しないでください。積むのと稼ぐの、どちらがどれだけ効くかを同じ土俵で比べた計算は、まだ回していません。
引出率の中身も違います。単身のほうは生活費と家賃だけでしたが、4人家族にはこの外側に教育費が乗ります。同じ「引出率3%」でも、財布の重さは別物です。
支出を減らす手は、この記事では検証していません
「じゃあ生活費を削ればいいのでは」と思いますよね。私もそう思います。でもLIFIREで実測しているのは、収入を足した場合だけです。途中で支出を減らして持ち直せるかどうかは計算していません。
なので、この記事の結論には入れません。効きそうだけど確かめていないものを、根拠にはできないので。
同じことを子ども3人の世帯で回した数字は子ども3人の記事に、子ども2人版は前回の記事の折りたたみに入れてあります。向きは同じで、水準だけが違います。
「20%までなら引き受ける」と決めると、金額のほうが決まる
ここが着地点です。
同じ4人家族で、今度は金融資産の総額だけを振りました。完全リタイア、子どもの進路は大学だけ私立文系で固定しています。
| 金融資産 | 引出率 | 100歳までにお金が尽きる確率 |
|---|---|---|
| 1.0億円 | 4.70% | 70% |
| 1.2億円 | 3.92% | 52% |
| 1.5億円 | 3.14% | 32% |
| 1.8億円 | 2.61% | 20% |
さっきの単身の表と、同じ形をしています。刻みが粗いだけで、やっぱり坂です。世帯が違うので、上の表と%を引き算するのはやめてくださいね。
上の働き方の表と、1.0億円の行がどちらも70%になっていますが、この2つは同じ計算ではありません(NISA口座の使い方が違います)。たまたま近いところに出ているだけなので、並べて引き算しないでください。
面白いのは、この表は生活費を固定して資産のほうを動かしていることです。単身の表は逆に、資産を固定して生活費を動かしていました。入り口が正反対なのに、出てくるのはどちらも同じ坂なんですよね。
そして、前半で保留にしていた「資産を積む側のコスト」がここで出ます。32%を20%まで下げるのに、3,000万円。この3,000万円は働いて作るしかないので、そのぶん辞める日が後ろにずれます。確率を下げようとすると、FIREできる日が遠ざかる。 タイトルはこれです。
で、この表の使い方です。
「1.5億円で足りますか」と聞かれたら、答えは「32%を引き受けるならどうぞ」になります。逆に「20%までなら引き受ける」と先に決めれば、必要額は1.8億円と決まる。 順番が逆なんですよね。
金額を決めてから確率を眺めるんじゃなくて、確率を決めてから金額を出す。 これが、この記事でいちばん言いたいことです。
念のため書いておきますが、20%が安全ラインだという意味ではありません。 そんな線はない、というのが上の表の話だったので。20%は、いまの私が自分に対して置いている数字というだけです。30%でいい人もいれば、10%まで下げないと眠れない人もいる。
それと、この1.8億円は私の目標額ではありません。 ここに書いた4人家族は家賃も車も資産も全部が架空のモデルで、我が家の数字とはまるで違います。同じなのは家族の形だけです。私の資産額は内緒。笑
そして10%まで下げたいなら、1.8億円のさらに向こうです。そのぶん働く年数が伸びる。最初の話に戻ってきます。どこかで「もういい」と言わないと、この計算は終わらないんですよね。
暴落とインフレを足すと、どうなるか(数字が増えるので折りたたみ)
単身1億円・引出率3.0%(24%)を基準に、条件をひとつだけ足した場合です。
| 足した条件 | 尽きる確率 |
|---|---|
| なし(基準) | 24% |
| 41歳で−20%の暴落 | 37% |
| インフレを3.0%に上げる | 46% |
暴落は「辞めた翌年に来る」という置き方です。同じ下げ幅でも、来るのが遅いほど傷は浅くなります。リタイア直後の暴落が怖いと言われるのは、これですね。詳しくは暴落が来るタイミングを検証した記事に書きました。
インフレのほうは1.5%を3.0%にしただけで、確率が倍近くになります。年金を名目で固定している前提なので、長生きするほど効いてきます。
自分の数字でやるなら
本文で使ったモデル、そのまま配ってあります。LIFIREは無料・登録不要です。上が前半の引出率の表、下が後半の4人家族の表に対応します。
LIFIREを開いて、左メニューの「設定」へ。「JSONエクスポート/インポート」の「インポート」から読み込むだけです。あとはダッシュボードを一番下までスクロールして「詳細な分析機能を利用する」から、モンテカルロ分析を実行します。既定は500回なので、結果が出たら「高精度で再実行(2,000回)」を押してください。それで本文と同じ条件になります。
画面に出るのはFIRE成功確率のほうです。100から引いて読んでください。 76%と出ていれば、尽きる確率は24%ということですね。
引出率を動かしたいときは、「支出」タブの基本生活費をいじります。初期値は月166,667円で、これが引出率3.0%。25万円まで上げれば4.0%です。
まとめ
「何%なら安全ですか」には、答えられません。安全な%が存在しないので。
でも「何%までなら引き受けますか」なら、あなたが答えられます。そしてそれさえ決まれば、必要な金額のほうは計算が出してくれる。
冒頭に書いたとおり、今の私は20%です。0%を目指したら一生辞められないし、30%だと夜中に目が覚めそう。その間のどこかで線を引くしかなくて、今の自分の感覚だとそこが20%だった、というだけの話です。根拠のある数字ではありません。1年後には違うことを言っているかもしれない。子どもが小さいうちは低めに、大学を出たら上げてもいいのかな、とも思っているので。
たぶん、あなたの線は私とは違う場所にあります。そこは自分で回してもらうしかないです。
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